スーパーカブとスーパー爺

そのじい様、いつもスーパーカブに乗って颯爽とやってくる。
ホンダのスーパーカブはモデルチェンジをしながら、まだ製造販売されているらしい。
しかし、このじい様のスーパーカブは間違いなく昔からのものだ。よく似合う。年季の入り方が違う。
大体、いつも作業着を着ている。
「いやあ、朝、堤防の草刈りをしてきてな、ひと汗かいたよ。はははっ」
と言って、店の奥のほうの文房具売り場に入っていった。
堤防とは隣の市との境である川の堤防だ。
いわゆるボランティアでの作業だろう。年寄りの朝はいつも早い。
このじい様、買うものはいつも決まっている。
アルバムか掛け時計である。フィルムをはがして挟み込む旧タイプのフエルアルバム。いつも5冊くらい買っていく。数えていたわけではないが、この数年間でたぶん100冊はくだらないだろう。
掛け時計は20個くらいか。
ある時たずねた事がある。
「ところでアルバム、今までたくさん買ってもらっているけれど・・・何に使うんですか?」
「人にやるんだよ・・・」
「その人にな・・・関係する写真を少しいれ込んでな・・あげるだよ」
「もうこの歳だとなあ・・だんだん知り合いが亡くなってしまって・・・はははっ」
「足が悪いだとか、入院するまでないんだが家の外にでられないとか・・・そんな人を見舞いにな」
手土産にアルバムを持っていくという。掛け時計も同じである。
アルバムが行き渡った所は掛け時計というわけだ。
耳も遠くなく目も不自由はなさそうである。なにより頭がシャープなことに驚かされる。
「5冊分合わせて2000円になります」
するとやおら、ズボンの中から布袋を引っ張り出した。布袋の先にはちゃんとズボンとつながった紐がついている。その布袋の中に財布が入っているのだが、さすがにさっさとは出てこない。時間がかかる。
「はは、歳とるとなあ・・・財布もどこに置いたかすぐに忘れちまうでなあ」
紐をつけておけば大丈夫と、ちょっと恥じるように言った。
しかし、誰でも50歳も過ぎれば忘れっぽくなり、このじい様の歳でそれを恥じるように言われると我々の立場がなくなる。
車に乗り込んでから忘れ物に気がつき、また玄関を開けて中に入ったもののさて何を取りにきたのかと立ち尽くす。冷蔵庫を開けてから、はて何がいるんだったかいな、とちょっとの間思い出せない。
あるある、こんなことは普通にある。
このじい様、当然年齢的に軍隊経験がある。中国大陸だったそうだ。
私は店が混んでない時にそのあたりを聞いてみた。
この手の会話は気をつけなければいけない。お年寄りはよくぞ聞いてくれたとばかり、延々としゃべり出して止まらない場合がある。
しかし、このじい様は違った。
「いやあ、飲み水がなくてな・・・泥水のようなものを飲んだのう」
「初めの一週間ほど、下痢でピーピー・・・はははっ」
「そのうちに、慣れてきてな・・・」
「まあ、そりゃあ、ひどかった・・・」
戦争という極限状態の一場面を、昨日のことのように話してくれた。
そんな質問を嫌がらずに答えてくれたが、けして長々とは語らず、切り上げ方に思いやりがある。
店先で長話はできないし、おまえさんたちもほんとうは忙しいのだろう、と。
「もう、おいくつになられるんですか?」
「わしか、今年で91歳じゃ・・・はははっ」
小柄であるが、背筋がぴっと伸びていてかくしゃくとしている。
こんな元気なお年寄りが店に買い物にきてくれる。うれしいことである。
それ以後私と従業員の間で、このじい様は「軍曹殿」というあだ名となった。
軍曹殿は今日もスーパーカブに乗って、元気に知り合いの家を廻っている。
なるほどなと思えたら、それぞれひと押しお願いします。

- [2008/04/17 09:29]
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コメント
戦争体験
公園のネコ150匹に八年間欠かさず餌をやっている老人の話です。
「真面目な奴はみんな戦死しよった。ワシは恐くて何べん号令がかかっても突撃できんかった。ほんだで帰ってこれた。」
「真面目な奴はみんな戦死しよった。ワシは恐くて何べん号令がかかっても突撃できんかった。ほんだで帰ってこれた。」
今、自分に出来ることを
素晴らしい方ですね!
でも私がそんな見知らぬ方の人生を垣間見ることが出来たのもmapさんのかけた一声に端を発しているんですよね?
なんだか人生の面白味を感じます。
ではとりあえず、散歩に行きたいとそのつぶらな瞳で訴えている愛犬とご近所回りでもしてきますか…。
この雨でスクスクと伸びだした庭の雑草たちを横目で見ながら…(ちょっとため息)。
でも私がそんな見知らぬ方の人生を垣間見ることが出来たのもmapさんのかけた一声に端を発しているんですよね?
なんだか人生の面白味を感じます。
ではとりあえず、散歩に行きたいとそのつぶらな瞳で訴えている愛犬とご近所回りでもしてきますか…。
この雨でスクスクと伸びだした庭の雑草たちを横目で見ながら…(ちょっとため息)。
コメントありがとうございます。
その公園の老人は突撃できなかった自分を責め、死んでいった同僚に対しての罪滅ぼしで多くの猫にえさを与え続けているのでしょうか。
日本では老人の精神性をおろそかにしすぎるようです。もっとお年寄りの人生に耳を傾けるべきですね。
日本では老人の精神性をおろそかにしすぎるようです。もっとお年寄りの人生に耳を傾けるべきですね。
マーサさん、コメントありがとうございます。
あなたの愛犬の名前は何と言うんですか。犬って散歩に行きたいって訴えるんですよね。うちにも一匹います。ラピスという名のビーグル犬です。でもうちのは馬鹿犬です。学習能力ゼロ(笑)
今日、イッチさんとそのお仲間が当店に立ち寄ってくれました。予想通りの感じのよい方々でしたね。今頃ビール飲んでますか。
今日、イッチさんとそのお仲間が当店に立ち寄ってくれました。予想通りの感じのよい方々でしたね。今頃ビール飲んでますか。
ご訪問コメントありがとうございます
はじめまして「OLミユキさん」です
私も貴ブログには何度か伺ってまして・・・
たくさんおもしろい記事を読ませていただきました^^
そしてうならせていただきました
わたしの駄ブログはおはずかしいです
これからも遊びにきてくださいね
わたしも遊びに来ます
はじめまして「OLミユキさん」です
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コメントありがとうございます。
「OLミユキさん」面白いですね。同じ頃スタートしたのに、アクセス数が私の約3倍はすごい!
私はつい長文になってしまうので毎日は書けません。せいぜい週一です。最近、画面のコントラストが強いのか自分の文章を読んでいると目が痛い(笑)それに字が小さいな、と。歳ですかね。
今後ともよろしくお願いします。
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今後ともよろしくお願いします。
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