空飛ぶ日本刀 

07.11店内 005

その男は細長い段ボール箱を五つ抱えてきた。
流暢とはいえないが、不足のない日本語で話しかけてきた。

 「すみません、これを買ってもらえますか」

段ボールのふたをあけるとそこには日本刀の大小2本が入っていた。もちろん模造刀である。

 「どうしたの、これ?」
 「この日本刀、おみやげで日本で買ったんだけど、ベトナムの税関でひっかかった・・・」
 「へええ、ベトナム人なの?」
 「そうです・・・」
 「じゃあ、再び日本に来る時税関から返してもらって、また日本に持ち込んだわけ?」
 「そうそう。日本を出るとき空港の検査ではOKだったのに・・・ベトナムはだめだった」

 「返してもらうのに罰金300ドルくらい取られたよ」

税関で没収ではなく罰金で返してもらえるというのがよくわからないが、深くは突っ込まない。
刀を一つづつ見ていく。大きな傷もなくコンディションもよさそうだ。
明らかに外国人向けのお土産仕様である。なかには鞘に細工がしてあり金文字でSAMURAI JAPANとかいてある刀もあった。

模造刀は当店では定番アイテムである。
美術工芸品を扱う問屋さんから新品を仕入れして販売している。
しかし興味をもつのは男性客ばかりで、触りたがる男をたしなめるのは一緒に来た女性である。
 「そんなもの・・・どうするのぉ」

模造刀は高額の割りによく売れる方だ。外国人にも人気がある。
数年前に映画「ラストサムライ」がヒットしてから、とくに売れるようになった気がする。

結局五組を18000円で買い取った。

 「ベトナムは持ち込みはだめだったけど、フィリッピンやブラジルはいいらしいよ」

他の外国人に売ればいい、といわんばかりの言葉を残してそのベトナム人は帰っていった。

博物館に飾ってある本物の日本刀は、すでに精緻な芸術品の域に達している。清冽な輝きは美しいが、武器には違いない。
男たちはレプリカでもそれが欲しいのである。
しかし、物が物だけにレプリカと言えども空港のチェックは厳しい。

私も苦い経験がある。
その昔の学生時代、半年ほどヨーロッパを一人旅をしたことがある。今で言うバックパッカーみたいなものだ。スペインの古都トレドでサーベルを買った。大きさと重さはほぼ実物大だが、もちろん刃はついてない金属のレプリカだ。

その後大事にバッグの底に入れ、スイス・イタリア・オーストリアなど旅を続けた。
そのサーベルを自分の部屋の壁にクロスさせて飾ろうと思い描いていた。
唯一の自分へのおみやげだった。
当時、若者の間でちょっとした人気コースだった、モスクワ経由で帰国した。
これは五木寛之の「青年は荒野をめざす」というベストセラーの影響もあった。(古いなあ・・・・)

ちなみに帰りのコースはウィーンからモスクワへ飛び、エアロフロート機に乗り換えてモスクワからハバロフスクまで空路。ハバロフスクから東沿岸部のナホトカまでは列車でシベリアを走り、ナホトカから船で横浜に入港するという、交通手段が実にバラエティに富んだコースである。
お金はないが時間と体力のある人にはうってつけと言えた。

果たして私といっしょに広大なユーラシア大陸を横断したサーベルはどうなったか。
最後の最後に横浜の税関で没収されてしまったのだ。
「刃渡りが長い」というのが理由だった。
刃はついてないのに・・・・。抗弁したが無駄だった。
物にはさほど固執しないはずの自分だったが、この時ばかりは苦労をともにした友人を失ったように落ち込んだ。

このベトナム人の日本刀もまたベトナムの空港まで到達したが、部屋を飾ることもなく日本に舞い戻った。そして哀しいかな、リサイクルショップの売り場に納まってしまった。
しかし、没収よりはましである。


なるほどなと思えたら、それぞれひと押しお願いします。

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