桐たんすの涙 

06.12.5湖東三山 031


中に入ると、引越し準備でそこら中がひっくり返っている。小学生低学年の女の子が二人いて、荷物の間を走りまわって遊んでいた。引き取って欲しい物を順番に聞いていく。リビングボード、チェスト、食器棚。なかなか質の高いものだ。それに比較的新しい。

「桐のたんす」が二棹あった。婚礼家具だ。
その時、その女性がぽつりと言った。
 「離婚したんです」
すでに離婚は珍しくないし、周りの人々も特別な関心を払わない。
暗い様子はみじんもない。さばさばした風にも受け取れる。

 「この家を出るのだけれど、次に住居には入らないし、置いて行けばうっとうしがるし・・・」
その「桐のたんす」かなり物がいい。総桐、金具細工も丁寧だ。購入時の価格は一棹50万円くらいか。そのうちのひとつを手放したいという。

う〜ん、困ったなあ。最近洋服タンスがすっかり売れなくなった。新築の家もマンションも多くはユニットクローゼットを設けるようになったせいもある。一人暮しの若者はポールハンガーで済ませていることも多い。
逆に出したい人が増え当店の在庫も増えている。婚礼家具はとくに足が遅い。
しかし、お断りするにはおしいタンスだ。
うちの店頭でいくらで売れるだろうか、せいぜい10万円ぐらいか。
リスクを考えると、いい値段では買い取れない。

 「ほんとうにいいタンスで、心苦しいのだけれど、3万くらいしかうちは出せません」
 「えっ、さ、3万?」
 「いくらくらいだと思っていましたか?」
 「いや、見当もつかなかったけれど・・・3万とは」

女性は親が買ってくれたのに申し訳がないと独り言のようにつぶやき、桐のたんすを見つめていた。
ふと見ると、女性の横顔から一筋の涙が流れているではないか。
泣かれたのは初めてだ。これにはまいる。ちょっとつらい場面である。

そんな時玄関に新たな客が来た。引越しセンターの営業マンの見積りだ。それを潮時に、
 「じゃ、桐のたんすはうちでは荷が重い、保留にしておきましょう」
他のものの引き取りのスケジュールは電話で、と言ってその家を後にした。

「女の涙」は周りにそれなりの衝撃を与える。何かいい方法はないか、帰路考える。
委託にして折半という手もあるなと思いつく。10万で売れれば、5万がお客さんに入る。今まで委託販売は一度もしたことがない。全て買取りである。当店としてはイレギュラーだ。すぐに売れず現金にならなくても、とりあえず家から運び出せて引越しには間に合う。
お手伝いできるのは、この程度の提案ぐらいか。

その女性は二日後にこの提案を受け入れた。

リサイクルショップは家庭の不用品を再販してゴミが増えるのを減速させる。
その点では社会に貢献していると言ってくれる人もいる。
その人の要らないものを買い取るので、たとえ安くても喜んでいただけることが多い。
中古ビジネスとしてはさらに幅広く商品を仕入れる必要がある。
その中でもっとも強力な商材源は、会社の倒産・飲食店の閉店・ご老人逝去後の遺品処分、そして離婚での家財処分である。
こうして並べてみると、関係者にとってはつらいことばかりだ。
リサイクルショップは「他人の不幸」をビジネスにしている、そんな一面も、確かにある。


その後、委託の総桐たんすは予想に反して、なんと一週間もたたずに売れてしまった。しかも仮につけた15万円で売れた。
買ってくれた人はいいものが安く買えたと大喜びし、売った女性もその結果に満足してくれた。


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